"精神的に向上心のないものはバカだ"
未読の方は”青空文庫 こゝろ”で検索した方が幸せかも。
拙いブログで知るには勿体ない作品。
本当に面白い作品は時の流れに左右されない。こゝろもそうだった。
挿絵の1枚もない活字の並びであるのに脳裏には細やかな情景が浮かび、登場する人物の心情を汲み同調し共感し緊張を得た。全日本が熱狂した激熱ライター夏目漱石はえぐい。
以下本編感想。
・先生と私の出会い
年に2度だけぜひ行きたいと思う飲み会が開催される。(最近はこのご時世で呼ばれなくて悲しい)
自分では思いつかない物の考え方や捉え方をする年上の話を聞くことができて大変心地いい刺激を受けることができる。
きっとこの物語に登場する私も先生から刺激を受けていたんだろうと想像にやすかった。
先生は達観しているように見えるのになぜ働かず妻を連れずに墓参りを続けるのか。その謎に心が惹きつけられた。
・両親と私
後にも触れる予定のこの作品のテーマの1つ、エゴイズムが表れていたと思う。
私の就職と父の体調を中心に各々の利己的な思いがよく語られた。
・先生と遺書 語られる壮絶な先生の過去と苦悩の日々そして現在
先生が人を嫌い俗世に身を置かず生きる理由が明らかになった。
親戚の叔父のような利己的で倫理に欠ける行いをする人間を嫌う先生が、Kに対して不誠実な行いをしてしまう。
親友Kに対して不義理を行う描写は生々しく醜く描かれ居た堪れない気持ちにさせられた。
・お嬢さんと私
反物を膝の上に置いて眺めるお嬢さん
旅から帰ると態度の少し変わったお嬢さん
「大丈夫です。本人が不承知の所へ、私があの子をやるはずがありませんから」と語る奥さん
どうしてこうなってしまったんだろうね・・・。両想いで幸せになりきれないのは効く。
・お嬢さんの心持
お嬢さんが先生に対して笑ったのは好きな相手に特別心配,嫉妬されることに心地よさを感じていたように見えるような・・・。これもまたエゴ。
・作品テーマは人間の"エゴイズム"と"倫理観"
先生を恋い慕い先生の考え方の根底を作った過去を知ろうとする私のエゴ。
私の就職について口を出す両親のエゴ。
先生からの返事が欲しい私のエゴ。
母の面倒を弟に見させようとする兄のエゴ。
いつ危篤に陥ってもおかしくない父を置いて東京に戻る私のエゴ。
お嬢さんと私の距離を縮めようとする奥さんのエゴ。
Kの気持ちを知りながら自分のためにKの恋の道を塞ぐ私のエゴ。
私がきっかけで自殺してしまったかもしれないことを外に漏らさない先生のエゴ。
手紙を最後の心残りとし思い残すことを無くしてこの世を去ろうとする先生のエゴ。
など
・平生はみんな善人、ある時に悪人に変わる。そのきっかけはお金,そして愛。
・こゝろを読んで得た教訓。誰もが自分の立ち位置で優先するものが変わる。